20080728

ディープ 島 木賃アパート


週末は論文に関する資料集めのためにこの半年間で五度目のポルトへ。僕はこれまでの訪問とはまた違う、ディープなポルトを体験してきた。
Rua São Vitorという通りを歩くと、建物の玄関につながる扉に混じっていくつかの狭くて暗いトンネルの入り口を見つけることがある。トンネルをくぐって中に入っていくと、間口が2メートルくらいの細長い庭が奥へと続いていて、庭の両側には小さな住宅がびっしりと並んでいる
通りに面したトンネルつきの住宅にはかつて荘園の主が住んでいたという。そして後ろの住居群には雇った出稼ぎ労働者を住まわせていた。主の住宅、共同の庭、労働者の家々のまとまりをIlha(イーリャ。ポルトガル語で「島」)と呼び、ポルトにおける労働者の為の最も典型的な住居形式としてかつては市内だけで百以上の島々が存在していたという。現在ではきちんと整備されて残っているものは少なくなってしまったが、Rua São Vitorには今なお人々が和気藹々と暮らしている島をいくつも見ることができる。中には、「イーリャ・コンクール金賞」と彫られた金属プレートを入り口に誇らしげに掲げるほど整備の行き届いている島もある。
僕は島の中がどうなっているのかと一つ一つ興味深げに中を覗き込んでいた。すると奥の方でおばあちゃんが「そんなところから見てないで入ってらっしゃいよ。」と言わんばかりに手招きをしているので、僕は調子に乗ってずんずんと庭の奥に入っていってしまった。番犬に吠えられたりしながらも、実際に入り込んでみると家に挟まれた空間は意外と居心地がいい。
狭い間口に狭い部屋、共同便所。そして漏れてくるテレビの音と鰯の炭火焼の匂いが僕に思い出させたものは、他ならない日本の木賃アパート地域のスケール感だった。

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