20080429

青の劇場 漂白 分解 


テージョ川を挟んでリスボンの対岸の街アルマダに、ポルトガルの建築家兼評論家マヌエル・グラサ・デイアシュの設計した「青の劇場」が建っている。僕は休日を利用してその劇場を見学するために、同居人のシキさんと一緒に沢山の観光客に混じってカイス・ド・ソドレ港からフェリーに乗って対岸に向かった。 真夏のように強い陽射しの中で、僕は多くの観光客みたいにパーカーを脱いで腰に巻いた。街行く人の露出度も随分と上がってきている。

アルマダの街はどこもかしこも工事中で、じりじりと照りつける太陽の光が路上に盛られた砂に反射してやけに眩しい。建物のタイルが年老いた魚の鱗みたいに剥げ落ちている。商店街の店の広告が色褪せている。それでも僕は不思議と物悲しさは感じなかった。貧しさは感じても、どこか明るい。貧しさが人の心にもたらす悲観的なものを、ポスターのインクと一緒に太陽が漂白してしまっている。

「青の劇場」はそんなアルマダの中心地近くに佇んでいる。全身を小さな青いタイルで覆われた姿で、強い存在感を放っている。同時に、必然性すら感じさせるほどの街との一体感も放っている。
周辺の建物と驚くほど近接していて、建物自体も決して小さくはないのに圧迫感を感じないのは、ボリュームの操作が巧みなのと、近づくと建築ボリュームのスケール感がタイルのスケール感にまで分解されてしまうからだろう。豪快さと繊細さがうまくバランスをとりあっている。建物の周りをゆっくり一周しながら真っ青なボリュームを見上げていると、空が紫がかった変な色に見えてきた。空より青い名作。

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