20080519

岩 聖なる山 満室


少し前のことになるのだけれど、僕はかねてから訪れたいと思っていたモンサントというポルトガルのベイラ・バイシャ地方の小さな村にシキさんと行ってきた。1938年、「ポルトガルで最もポルトガルらしい村」に選ばれたことは地球の歩き方にも書いてあるくらい有名な話だけれど、基準は定かではない。

ポルトガルの小さな村は、そのどれもがそこだけ何か時間の流れに取り残されてしまったみたいな空気を持って国中に散らばっている。ほとんどが一日で全ての道を踏破できてしまうくらいの規模なのだけれど、それがかえって僕らに与える印象の密度を大きくする。何度も同じ道をぐるぐると回っていると、安心感とともに親しみさえ沸いてくる。おまけに大体の場合料理がうまい。
一つだけ難点を言えば、こうした小さな村は往々にして公共交通からも取り残されていることが多い。車を持っていないとなかなか思うように旅程が進まないことも多いし、辿り着くことさえできない(1)かもしれない。そんな時は、どう見ても頼りにならなそうなインフォメーションにしかたなく電話して、しかたなく彼らを頼ってみる。少なくとも、モンサントまではかろうじてバスが通っている。
背もたれの壊れかけたバスに揺られ、内陸独特の少し湿った平原の景色を進む。羊の群れを追い越して進む。ある地点を境に、遠い年月を想わせる角の取れた巨岩が大地にごろごろと現れ始める。遠くにその丸まった巨岩をたっぷりと乗せた岩山がそびえたっているのが見える。ポルトガルの真ん中を走るエストレーラ山脈の一部だ。ぐるりとその山を回りこむようにしてバスが進むと、窓越しにモンサントの村がすっかり山肌と同化したみたいにしてその姿を見せる。この瞬間はなかなかにドラマチックだ。
Monsanto(聖なる山)という名前が、果たしてこの村を指しているのか、それともこの山を指しているのか、結局僕には分からなかった。山が村で、村が山なのだろう。山頂の城を囲むようにして、この村の石造りの家は文字通り岩を手がかりにして建てられている。岩に挟まれ、岩を囲み、岩を彫り、岩に乗っかっている。
最近では観光地化が進んで、もともとの異様な姿とあいまってテーマパークみたいな雰囲気になってしまっている部分もあるけれど、当の村人達はとくに気にしている様子はない。おばあちゃんは家の玄関の前に腰掛けて世間話をしたり編み物をしている。日中暑くなると家の中に戻り、涼しくなって夕日が通りを染める時間になると、また家の外に腰掛けておもむろにオレンジの皮をナイフで剥き始める。そんなリズムは、昔から変わっていないのだろう。
その日、泊まろうとしていたモンサントの宿が満室だったので、僕らは近くの村「ペーニャ・ガルシア」で一泊することになった。
こんな予定外のできごとは、こっちの感覚ではいたって予定内だけれど。
(1)モンサントへの行き方: リスボンからカステロ・ブランコへ電車またはバスで移動。そこから更にバスで1時間半。土日祝はバスが一回しか通らないので、必然的に一泊することになる。時間は要確認。

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