20080616

人工地盤 傑作 ジョーク 


リスボンのべレンにある宮殿パラシオ・デ・ベレンの増築計画は、21世紀に入ってからの事務所の代表的なプロジェクトの一つだ。中にはポルトガル大統領府のためのアーカイブ・センターが入っている。
その特殊なプログラムのため、残念ながら一般公開はされていない。見学のためには事務所に連絡を取って予約をしてもらうことが必要になる。周りからの評判も良く、前々から是非見てみたいと思っていたので、僕は事務所の同僚と日本人の知り合いを集めてエレクタから出版されているカヒーリョ・ダ・グラーサ作品集の表紙の建物を訪れてきた。
広大な面積を要求する増築計画の敷地になったのはかつて宮殿の裏庭だった場所だ。カヒーリョは人工地盤によって「庭を持ち上げる」ことで、その下に建築を納めるという解法を取った。一階に当たる増築部分へは地下に潜っていくようにして入っていく。カフェテリアだけが二階にあり、白く細長いボリュームが人工地盤から飛び出している。国際コンペで一等を取ったこのプロジェクトの肝はこの構成にある。

順番にパスポート・チェックを受け、金属探知機をくぐって敷地内に入る。最初に案内された庭、つまり屋上には全面に瑞々しい西洋芝が生えていて、人工地盤から飛び出したカフェテリア棟の純白の壁と非現実的な美しいコントラストを作っている。芝生は積もったばかりの雪の上を歩いているみたいに少し罪悪感を覚えるほどふかふかと柔らかく、壁はここがポルトガルであることを忘れてしまうほど丁寧に手入れされて竣工時の白さを保っている。芝生の上を宮殿内で放し飼いにされている孔雀がゆっくりと歩いていた。
内部に潜っていくと、片面だけ鮮やかな黄緑色に塗られた廊下の壁を舐めるようにトップライトが落ちている。黄緑色を吸い込んだ柔らかい光が空間全体を満たしていた。

コンセプトからディテールに至るまで、事務所の技巧が全て詰まった傑作。いつもひょうひょうとしていて、理解するのに10秒くらいかかるジョークを飛ばすうちのボスの本気を見た。必見。

No comments: