20080802

テンプル騎士団 回廊 ゲシュタルト崩壊


トマールは12世紀に騎士にして修道士という二つの顔を持っていたテンプル騎士団によってつくられた街として知られている。そしてそのテンプル騎士団は謎の多い組織として知られている。秘密結社フリー・メイソンの起源だと主張する人もいるし、ダン・ブラウン原作のダヴィンチ・コードにも登場している。
街を見下ろす丘に腰を据えているキリスト修道院は騎士団の要塞として建てられた。ポルトガルの修道院建築の中でも最も巨大なものの一つで、バターリャやアルコバサの修道院と同じく1983年に世界遺産に指定されている。

リスボンのサンタ・アポローニャ駅から鉄道で二時間ほど北上する。トマールの駅は終着駅なので寝過ごす心配は無い。駅を出て目の前に伸びる道を真っ直ぐ歩いていくと、騎士団の街の中心に辿り着く。
街の石畳はテンプル騎士団のシンボルでもある十字架のパターンを作っている。建物から飛び出したベランダの鉄製の手摺をよく観察すると、やはり十字架や同じくシンボルの地球儀なんかを見つけることができる。僕は街を少し歩いただけでかつてここで暮らしていた騎士団の気配を強く感じていた。
インフォメーション・センターで予め聞いておいた評判のいいレストランでフランゴ・アッサード・ピリピリ(1)とフルーツ・サラダ(2)で腹の虫のご機嫌をとった後、僕はシャワーみたいに降り注ぐ日差しを頭から浴びながら丘を登って修道院の敷地へと入っていった。入り口で一ユーロもする地図を購入したときから分かっていたのだけれど、この要塞でもあり修道院でもある建築は冗談みたいに広い。とにかく回廊が多いのがこの修道院の特徴だ。すべての回廊が同時に出来たわけではない。時代を経て増築を繰り返した結果、次々に回廊が増殖していったらしい。回廊はそれぞれ機能とそれに相応しいスケール、それから名前(墓の回廊、沐浴の回廊、宿の回廊エトセトラ)を持っていて、それらが絡み合ってこの建築における多様性と複雑性を生み出している。
地図を頼りに見落としが無いよう虱潰しに見て回る。暗く冷たくて吸い込まれそうに静かな室内と、刺すように明るく眩しくて小鳥の声や風の音が流れている回廊が繰り返し交互に現れる。対照的な空間を反復して体験していると、認識している距離と体験している距離が徐々にずれていくように感じる。狭いとか広いとかの意味が曖昧になっていく。ゲシュタルト崩壊みたいなものだったのかも知れない。ただただ歩き疲れていただけなのかも知れないけれど。

(1)Frango Assado Piripiri: ローストチキンにピリピリというスパイスを加えたもの。辛い刺激に対する擬音語が日本語と同じなのが興味深い。
(2)Salada de Fruta: 季節のフルーツを一口サイズにカットしてシロップで和えたもの。缶詰を使っているところも多いけれど、大体外れなしで美味しい。

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