20080803

ティー・ハウス ジャズ 贅沢


シザの建築でどれが一番好きかと聞かれたら、僕はまずポルト近郊のレサ・ダ・パルメイラにある彼の最初期の作品「ボア・ノヴァのティー・ハウス」を挙げたい。どれくらい好きかというと、この一年の間に4回も足を運んでしまっているくらい好きだ。
大西洋を望む岬に、まるでそこにあるのが必然であるかのようにティー・ハウスは佇んでいる。低い屋根、飛び出した長い庇は水平性を強調して大地との一体感を強めている
海岸沿いを歩いてティー・ハウスへと向かう。大西洋の冷たい波が岩礁にぶつかって轟音と共に真っ白い飛沫を散らして、その上を水鳥が飛び交っている。
扉を開いて中へ入ると、店内はいつも趣味のいいジャズ・ナンバーがかかっている。店内のテーブルやランプなどの家具はどれもシザが自らデザインしたものだ。口髭を生やした初老のウェイターに案内され、横連窓に向かい合うようにソファにゆっくりと腰を沈める。この時初めて、立っている間は長い庇によって隠れていた水平線が目の前に広がる。この庇と窓と家具の配置は全て海の水平線に合わせて緻密にデザインされている。
ここでの僕の取る行動はいつもだいたい同じだ。日没より少し前に店に入って、夕日が沈んでいくのをコーヒーを飲みながら眺める。それだけだ。だけどそれがとても上質で贅沢な時間だということを、ここに来たことのある人なら誰もが知っている。夕日の赤くてまろやかな光が、舐めるように長い庇から天井に伝わって部屋全体を満たしていく。その時ばかりはおしゃべりなポルトガル人の客も口を閉じてぼんやりと沈む太陽を眺めていた
あまり交通の便がいい所ではないけれど、ポルトに行った際は是非。近くに同じくシザ設計のスイミング・プールが二つあって、片方は有名でもう片方はあまり知られていないのだけれど、どちらもおすすめ。

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